「夜のドーナツ」は、なぜビジネスとして成立するのか

木曜日担当の荒木です。
私の家の近くに、夜だけ開いているドーナツ屋さんができました。
昼に見ると、空き地の中にポツンと小さな小屋が立っているだけです。
立地も良いとは言えず、駅から徒歩10分以上。大通り沿いでも商店街でもありません。
それにもかかわらず、19時の開店時刻になると次第に人が集まり、その列は閉店時刻(23時~0時)まで続きます。
売っているのは、揚げドーナツではなく焼きドーナツです。
店内で作りたてのドーナツに、ホイップクリームやカスタードなどを添え、ひとつずつデコレーションして提供しています。
価格は1個450円。
一般的なドーナツが150円前後であることを考えると、決して安くはありません。
それでも人が集まるということは、多くの人がその価格を自然に受け入れているからだと考えられます。
そもそも、ドーナツと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、子どものおやつ、昼間に食べるもの、気軽に買うもの、といった日常的なイメージでしょう。
ところが、これが「夜のドーナツ」になると、受け取られ方は一変します。
一日を終えたあとのご褒美であり、自分だけの時間であり、大人の楽しみ。
「夜」という時間帯に変えるだけで、ドーナツは日常のおやつから、少し特別な存在へと意味を変えるのです。
この「夜のドーナツ」を分析してみると、実に練られたビジネスモデルであることが分かります。
今回は、この事例からビジネスを考えるうえでのヒントを読み取ってみたいと思います。
まずは、なぜ「夜」に販売しているのか、という点です。
焼きドーナツは冷えると固くなりやすいため、注文後に作り始め、作りたてを提供する必要があります。
一方で、待ち時間はお客様の不満につながりやすい要素でもあります。
そこで、昼間の慌ただしい時間帯や空腹な時間を避け、あえて夕食後の落ち着いた時間帯を選んで営業していると考えると、辻褄が合います。
揚げるのではなく焼くことでカロリーを抑えつつ、「待つこと自体がストレスになりにくい時間」を選ぶことで、作りたてという価値を無理なく成立させているのです。
次に、価格づけです。
ドーナツ以上、ケーキ未満の1個450円は、気軽すぎず、重すぎない「ちょうどいい価格帯」に設定されています。
では、なぜ「ちょうどいい」と感じられるのでしょうか。
それは、この店が提供しているものが、単なる「美味しいドーナツ」ではなく、一日の終わりに味わう余韻や気分といった「夜の特別な体験」そのものだからです。
つまり、モノ(食べ物)ではなくコト(体験)を提供しているからこそ、価格は単純な比較ではなく、妥当性をもって受け入れられているのです。
さらに、オペレーションと広報の観点からも工夫が見られます。
オペレーション面では、営業時間を夜の数時間(4~5時間)に絞ることで、人件費を抑えています。
また、「夜」「行列」「背徳感」「映え」といった要素はSNSとの相性も良く、広告宣伝費をかけなくても、体験そのものが自然に拡散される仕組みになっています。
このように整理してみると、この店は
・価値の意味づけによって価格を成立させ、
・時間帯の選択によってオペレーションコストを抑え、
・顧客の体験を通じて、無理のない集客を生み出している、
非常に合理的なビジネスモデルであることが分かります。
ただし、このモデルには課題もあります。
ビジネスには、収益性だけでなく「持続性」も求められるからです。
「夜」という驚きが当たり前になったとき、次にどんな意味や物語を重ねられるのか。
それが、このモデルが一過性で終わるか、進化し続けられるかの分かれ目になるでしょう。
商品を大きく変えなくても、
時間・使われ方・意味づけを見直すだけで、ビジネスの姿は変えられます。
御社の商品やサービスは、本当に「今の時間・今の使われ方・今の意味づけ」である必要があるでしょうか。
もし、その問いに少しでも立ち止まったなら、ぜひ松戸ビジネスサポートセンター「ビジまど」を思い出してください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
